心筋細胞は、生直後に、分裂能を失うため、心筋組織はさまざまなオートクライン・パラクライン因子により刺激を受け、生存能、組織修復能を維持している。中でも、IL-6ファミリーサイトカインは、心筋の恒常性維持に重要な役割を演じていることが示されてきた。本研究では、IL-6ファミリーサイトカインの下流に存するシグナル伝達分子STAT3に注目し、心筋組織におけるSTAT3の機能を、心筋保護、修復、再生の観点から検討し、以下のことを明らかにした; (1)心筋細胞におけるSTAT3の活性化は、活性酸素スカベンジャー、メタロチオネインの発現を増強することによって、心筋組織に虚血再灌流傷害に対する抵抗性をもたらす。 (2)心筋細胞をIL-6ファミリーサイトカインで刺激すると、STAT3を介してWnt5aの発現が増強し、N-cadherinの発現量が増える。その結果、心筋細胞間の接着の促進が認められる。 (3)心筋組織幹細胞をIL-6ファミリーサイトカインで刺激すると、血管内皮細胞に分化誘導される。その過程に、STAT3の活性化は必須である。 以上のような結果から、STAT3を標的とした治療法の確立のために、IL-11を用いた心筋保護治療法の可能性を検討した。その結果、IL-11は心筋細胞にシグナルを伝達すること、IL-11を前投与することにより、心臓が、虚血再灌流傷害に対する抵抗性を獲得することを明らかにした。IL-11は、IL-6ファミリーサイトカインのひとつであり、現在FDAから化学療法後の血小板減少症に対する治療薬として認可されており、ヒトに対する安全性は確認されている。従って、これらの知見は、STAT3を標的とした治療法実現の可能性を支持するものである。
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