細胞内情報伝達系の研究はこれまで、その構成要素である分子群の同定と、分子間ネットワークの探索が中心であった。次のステップの研究として、これら情報伝達分子ネットワークの中を実際にシグナルが伝搬されていく様子を解析していかなければならない。そのツールとして蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理に基づくプローブは大いに期待されている。本研究では、Rhoファミリー低分子量GTP結合蛋白に焦点を当て、分子プローブの開発とそれを用いた細胞内情報伝達系の解析を行ってきた。さらに、プローブを高感度に検出する系の開発も進め、全反射蛍光顕微鏡を用いたFRETイメージングの技術を確立した。これらの成果をもっとも端的に示したのが、Rhoファミリー低分子量GTP結合たんぱくTC10の解析である。TC10はインシュリン刺激によるGLUT4の細胞膜発現等に関与するとされてきたがその詳細な機能は不明であった。本研究ではTC10のFRETプローブを作成し、輸送小胞上のTC10が、小胞の融合時に急激に活性低下することを、全反射蛍光顕微鏡を用いた初めて示した。さまざまな実験により、このTC10の活性低下が輸送小胞の細胞膜への融合に必要であることを示し、TC10という分子スイッチの機能を可視化技術により明らかにすることに成功した。本研究により、低分子量GTP結合蛋白のFRETプローブの開発は完成の域に達したと思われ、今後、これらのプローブを使ったネットワークの解析、とくにシミュレーションモデルの構築が進められることが期待される。
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