研究概要 |
T細胞増殖抑制剤、再狭窄抑制剤、抗がん剤としての薬効が注目されている薬剤ラパマイシンの哺乳動物細胞内の標的タンパク質がmammalian Target of Rapamycin(mTOR)である。ラパマイシンの薬効は臨床医学の場で既に応用されているが、近年、臓器移植後の免疫抑制剤(T細胞増殖抑制剤)として長期投与されているケースにおいて、血小板減少、創傷治癒の遅延、血中中性脂肪濃度の上昇という副作用が報告され始めた。本研究はmTORを介した細胞システムの分子機構を解明することによって、ラパマイシンの副作用が惹起されるメカニズムを明らかにすることを目的としている。 薬効および、既知の副作用のうち血小板減少および創傷治癒の遅延は、mTORが制御する細胞成長をラパマイシンが抑制することに起因することが示唆されてはいるが、この分子メカニズムに関する直接的な知見は少ない。mTORは翻訳制御に関与する4EBP1(真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1)をリン酸化することが知られていた。我々は、mTOR-4EBP1系が関与する細胞成長制御機構について次ぎの点を明らかにした。 mTORは基質である4EBP1と直接結合してリン酸化するわけではなく、Scaffoldタンパク質raptorが介在しているが、ラパマイシンはmTORとraptorの結合を阻害することによってmTORと4EBP1との結合を阻害している。 Raptorと4EBP1との相互作用には4EBP1が有するTOSモチーフが必要であり、このTOSモチーフに変異を導入することによって、4EBP1のThr^<37>,Thr^<46>,Thr^<70>リン酸化が阻害され、これに伴い細胞のサイズが減少する。 以上の結果から、ラパマイシンは上記の分子メカニズムを阻害することによって細胞増殖を遅延させていると考えられる。
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