研究概要 |
臨床的な背景がよく検討されている胃MALTリンパ腫について、昨年度の研究に引き続いて以下の検索を行った。対象症例は合計76例である、そのうち61例(81%)は除菌に反応し、寛解が得られた。除菌抵抗性の13例中5例はH.pylori陰性でt(11;18):API2-MALT1陽性であった。リンパ腫例と非腫瘍性リンパ球についてDNAマイクロアレイを検索したところSHP1が著明に発現減少していることを既報告しており、これを中心に胃リンパ腫例で検討した。1)SHP1の発現を検討したところ、MALTリンパ腫では半数程度が発現が低く、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(以下DLBCL)では全例陰性であった。2)SHP-1のメチル化を検討したところ、MALTリンパ腫、MALTリンパ腫でDLBCL成分を伴うもの、純粋なDLBCLの順でメチル化の率が上昇し、DLBCLでは全例がメチル化していた。すなわちSHP-1の発現抑制にはメチル化が重要であることが判明した。除菌との関係では、除菌により寛解した症例ではメチル化が明らかに減少したのに対して、除菌抵抗例ではメチル化が持続した。3)さらに、各種ガン関連抑制遺伝子としてP15,P16,P73,DAPK,hMLH-1,MGMT,MINT1,MINT2,MINT3,HCADの10遺伝子のpromoter CpG island領域のメチル化について解析した。その結果MALTリンパ腫例でH.pylori陽性例においてメチル化症例は86%であったが、一方、除菌後および非感染症例ではメチル化症例が46%である。また、除菌後寛解例ではさらに14%に低下した。これらの結果は、H.pyloriの感染がメチル化を誘導し、それによるMALTリンパ腫を引き起こすことに関係した新たな知見である。現在このことについてより詳細に検討し、学会、論文化することを準備している。
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