前立腺癌に極めて高い発現を示す新規遺伝子PCA-1をdifferential display法で見出しクローニングを行ったが、その生物学的機能はいまだ明らかでない。PCA-1遺伝子と相同性を有する大腸菌AlkBの機能から、酸化的脱メチル化に関連することが予想されるため、ヒト前立腺癌組織でいくつかの遺伝子にメチル化を有する症例を用いて免疫組織学的に検討したが、メチル化の程度や組織分化度との相関は得られなかった。また、その分子メカニズムを明らかにするために、PCA-1を発現するヒト前立腺癌細胞株DU145をsiRNA法でknock downすると、EGF刺激によるERKが阻害され、ERKに依存したcyclinD1誘導、cell cycle促進(G1-S transition)が有意に抑制され、FLICE-like inhibitory protein (FLIP)のユビキチン化の促進とEGF刺激によるRaf-1-FLIP相互作用を強く阻害することが明らかとなった。FLIPはRaf-1の上流にあって、そのシグナル伝達を促進させることから、内因性PCA-1はFLIPの安定化とFLIP-Raf-1/ERKシグナルを介して、成長因子による効率的な細胞増殖をもたらすと考えられた。抗癌剤であるpaclitaxel誘導性apoptosisに及ぼす影響について検討したところ、ERK活性化がapoptosis誘導を阻害し、paclitaxelの抗癌効果を低下させた。PCA-1をknock downすると、paclitaxelによるFLIP-Raf-1依存性ERK活性化が抑制され、apoptosis感受性が有意に促進された。FLIPを強発現させたDU145細胞では、親株に比較してpaclitaxel誘導性apoptosisが抑制されたが、この効果はPCA-1のknock downにより遮断された。以上より、PCA-1はFLIP/Raf-1/ERKシグナルを増幅して前立腺癌細胞の増殖を促進する一方、apoptosis誘導や抗癌剤感受性を阻害することで、癌の進展や増悪に関与していると考えられた。
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