研究概要 |
形態形成過程における上皮-間葉相互作用のメディエーターのひとつに肝細胞増殖因子(HGF)が知られている.また,HOX遺伝子群は,形態形成のマスター調節因子として働く.転移・浸潤は,このような形態形成に関与する因子間で形成されるネットワークの異常の結果生じる現象と捉えることができる.本研究課題では,ヒト膵癌SUIT-2細胞を用いて,「HGFによって癌細胞のHOX遺伝子の発現が変化し,その変化に伴って転移・浸潤能が亢進する」という仮説の証明を試みた,その結果以下の点が明らかとなった. SUIT-2細胞をHGFで刺激すると,細胞間接着に関与していたE-カドヘリンが細胞膜から消失し,その裏打蛋白であるβ-カテニンが核内へ移行した.一方,39個のHOX遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCR法で解析したところ,HOXB3の発現のみがHGFで刺激によって亢進した.ルシフェラーゼを利用したレポーターアッセイの結果は,HGFによるHOXB3の発現充進が,β-カテニン-TCF複合体によるHOXB3遺伝子の転写活性化に起因することを示唆した.その転写活性化に必要な領域は,HOXB3遺伝子のプロモーター領域(-2440〜-1)に存在することも明らかにした.細胞生物学的には,HGF刺激によってSUIT-2細胞は細胞間の接着が消失し細胞分散を引き起した.さらに,ファゴカイネシスなどの様々な細胞運動能が,HGF刺激によって高まることも明らかとなった.HGF刺激によるこの細胞性状の変化がHOXB3の発現亢進によって起こるのか否かを判定するために,HOXB3遺伝子の発現プラスミドベクターを構築した.現在,SUIT-2細胞に遺伝子導入をし,細胞性状の変化を観察しているところである.
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