発がんにおける突然変異の原因として外的な化学的・物理的要因が従来重視されてきたが、これらが生体で実際にがんに導く突然変異を誘発しているのか、最近の報告からは疑問視されている。逆に内在的な突然変異因子と外的因子の相互作用が注目を浴びはじめてきた。その内的因子のひとつであるAIDのトランスジェニックマウスではTリンパ腫と肺がんが生じるが、それらのため早期に死亡し、他の組織での発がんが検討できない。この問題を解決するため、AIDの発現を時間空間的に制御可能なトランスジェニックモデルを作成した。Creリコンビナーゼの働きによりAID発現のスイッチが恒久的に入るコンディショナルトランスジェニックマウス(AID cTg)を作成した。(1)AID cTgとBリンパ球特異的にCreを発現するCD19-Creマウスとを交配させた結果、生まれたマウスにおいてはBリンパ球でのみAIDが構成的に過剰発現していた。そのようなマウス12匹を20カ月にわたって観察したが、Bリンパ球腫瘍の発症は認められなかった。Tリンパ球と異なり、Bリンパ球ではAIDの活性が何らかの機構により抑制されている可能性が示唆された。(2)全身でモザイク的にCreを発現するTNAP-Creマウスと交配することにより種々の組織で中程度のAIDの過剰発現をみるマウスを作成した。このマウスを60週間観察すると肺や肝臓などで腫瘍の発生を認める個体が観察された。この結果はAIDにより肺とリンパ球の腫瘍のみならず、肝臓など他臓器の腫瘍も誘発されることを示している。
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