研究概要 |
腸管粘液の線虫に対する感染防御や病態形成に及ぼす影響を明らかにする目的でNippostrongylus brasiliensis (Nb)およびHeligmosomoides polygyrus (Hp)を各種系統のラットおよびマウスに感染させ小腸における杯細胞,粘液コアペプチドおよび糖転移酵素の発現を解析した. 1.Nb感染BN, F-344系ラットは,免疫学的排除期に杯細胞増生,粘液量の増大,MUC2,MUC3,MUC4遺伝子の発現増強が見られ,免疫学的排除の後にはMUC5AC遺伝子の発現増強が見られた. 2.Nb感染マスト細胞欠損Ws/WsラットもBN系ラットと同じ反応パターンを示した. 3.Nb感染胸腺欠損rnu/rnuラットは免疫学的排除が生じないにもかかわらず対照rnu/+ラットと同レベルの杯細胞増生,粘液量の増大,MUC遺伝子の発現増強を示した. 4.Hp感染BALB/c, C57BL/6マウスは感染4週後までは免疫学的排除が生じない.両系統ともに杯細胞増生,粘液量の増大,MUC2タンパクの発現増加が感染4週後まで見られた.一方,シアル酸転移酵素ST3GaIIVの遺伝子発現はBALB/cで感染後著しい発現増強が認められたのに対して,C57BL/6では非感染時の発現レベルがBALB/cに較べて著しく高く,感染によっても変化しなかった. 以上の結果から,ラット,マウスともに線虫感染により杯細胞増生と粘液量の増大が生じ,MUC2,MUC3,MUC4遺伝子の発現増強が生じることが明らかになった,これらの変化は必ずしもacquired specific immunityに依存せず,マスト細胞の活性化にも依存しないことが明らかになった.シアル酸転移酵素はマウスにおいては系統差が著しく,シアル酸転移酵素の発現に伴って生じる糖鎖変化は感染防御や病態形成に必ずしも関与していないと考えられた.
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