研究概要 |
細菌の分類学では16S rDNA配列による系統分類が、分類体系の根幹になって分類体系が整備されているが、この情報は系統分類には優れているが、属の中の類縁菌種を識別できるほど多型がないため、菌種の分類同定には十分な情報をえられない。菌種は全染色体DNAの類似度が70%以上ある菌株の集団として、核酸レベルで定義されているが、この方法は抽出したDNAの長さや純度に影響され、人者ごとにデータがばらつくという欠点があったため、種の分類を補足する新たな手段として、16S rDNA以上に多型のある遺伝子情報の蓄積が要望されてきた。われわれはこの研究でNycobacterium.Staphyloccus, Streptococcus, Legionella, Enteroibacteriaceae, Vibrio、Aeromonaなど臨床細菌学的に重要な菌郡のDnaJ配列を蓄積してきた。これまでの研究成果でStaphylococcus, Streptococcusの菌群では亜種レベルの識別まで可能な多型配列があることを報告してきた。 今年度は主にVibrioとAeromonasのおよびMycobacterium、およびEnterobacteriaceaeの基準株65株と野生株80株を国内外から収集し、DnaJ配列を決定した。その結果、Vibrio属では16S rDNA配列では識別できないVibrio choleraeとVibrio mimicusの区別、Vibrio parahaemolylticusとVibrio alginolticusが明確に識別できることがわかった。Mycobacterium属でも16S rDNA配列が同じMycobacterium KansasiiとMycobacterium.gastriの独立した菌種がDnaJ配列では4%以上の違いがあり、識別に有効であった。これらの菌群では16S rDNA配列の多型が95-100%の間に分布するのに対し、DnaJ配列の多型は75-100%と違いが大きく、DnaJ配列を使った菌種レベルの分類に有効であることが証明された。 国際命名委員会が推奨する"菌種の分類に有効な少なくとも5種類の多型を持つハウスキーピング遺伝子配列の蓄積が必要"という呼びかけに対応できる候補遺伝子のデータの蓄積に貢献できた。 また、これらの配列情報は菌種の分類だけではなく、臨床で病原体の特異的検出系をデザインするのに不足していた株レベルでの多型遺伝情報を提供したことから新しい検出同定の手法開発へ貢献した。この成果は2つの特許出願に結びついた。
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