次の3つの点について研究を進め、下記のような成果を得た。 1)多剤排出ポンプの系統的解析。多剤排出ポンプは作用機構や構造の異なる複数の抗菌薬を細胞外に排出するので、ひとたびある細菌が多剤排出ポンプの遺伝子を獲得するかサイレントな多剤排出ポンプ遺伝子が発現するようになると、その細菌は一挙に多数の抗菌剤に耐性となってしまう。ゲノム解析の結果から、緑膿菌、セラチア、肺炎桿菌などには30個以上の多剤排出ポンプ遺伝子が存在することがわかっている。本年度は、これらの耐性菌が持っている多剤排出ポンプの遺伝子をたくさんクローニングし、それらの構造、生化学的性質、発現制御機構の解析を進めた。緑膿菌のRND型多剤排出ポンプの全て、セラチアのSMR型およびMATE型排出ポンプの全て、肺炎桿菌の主要なポンプ15個についてクローニングに成功し、性質の解析を進めた。MRSAについてもほぼ全ての多剤排出ポンプの遺伝子クローニングに成功した。 2)多剤排出ポンプ阻害剤の探索。多剤排出ポンプを阻害することができれば、一挙に多数の抗菌剤が効くようになる。MRSAの多剤排出ポンプを阻害する物質、緑膿菌の多剤排出ポンプを阻害する物質などを見いだし、構造解析を行い、それらの物質の性質を明らかにしつつある。また、単離・精製には至っていないが、有望な候補物質も見いだしている。 3)MRSAやVREを、耐性となった抗菌薬に対して感受性化させる物質の探索。代表者らはMRSAやVREに有効な物質を植物からすでにいくつか見出している。これらの有効成分について、詳細な解析を進めると共に新たな有効物質も見つけつつある。
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