ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)はヒトT細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである。本ウイルスがコードするTaxは感染細胞の種々の機能を制御し細胞を不死化する。生体内においてはHTLV感染細胞は潜伏状態にあり、ウイルス遺伝子発現は抑制されている。おそらく宿主が持っている防御機構によると考えられるが、詳細は不明である。一方、ウイルス側に宿主のそのような防御機構を排除する機能が存在すると考え、Taxによるメチル化プロモータからの転写制御について解析した。Taxが標的とする本来の転写プロモーター(LTR)はメチル化されている場合が多い。その際でもTaxはLTRからの転写活性を低いながらも示した。しかし、Taxにより転写活性化される他のプロモーターからの転写は活性化しない。その原因を調べ以下のことを明らかにした。(1)Taxが転写活性化するメチル化されているプロモーターはCRE配列を持っている。(2)その際CREBの存在は必要としない。(3)Taxによる転写活性化にはメチル化DNA結合タンパク質MBD2が必要である。他のメチル化DNA結合タンパク質はその活性を示さない。(4)TaxはMBD2のC端を介して結合する。(5)MBD2のメチル化DNA結合には塩基配列の選択制は低いにもかかわらず、Taxによるメチル化プロモーターからの転写は配列特異性が高い。以上のことから、配列を認識する他の細胞性因子が存在し、それが介在することによりプロモーター選択性が生まれると考えられる。以上の結果は、HTLV感染細胞において、ウイルスLTRがメチル化された場合においてもTaxにより転写が起こることを示唆するばかりでなく、細胞内においてすでにメチル化されている、あるいは感染により新たにメチル化されたある種の転写プロモーターからの転写をTaxが担う可能性が考えられ、HTLV感染による新たな転写制御機構の存在を示すものである。
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