研究概要 |
E型肝炎は発展途上国での流行性肝炎の一つであり、わが国を含め、衛生環境の良好な先進諸国でのE型肝炎はこれまで所謂「輸入感染症」の一つとして位置付けられていた。しかし、研究代表者らは、最近の研究により、わが国でも国内感染の人畜共通感染症としてのE型肝炎が少なからず存在することが明らかにしてきた。本年度の研究において、E型肝炎ウイルス(HEV)の生態および病原性の分子基盤を解明するとともに、医生態学的調査結果に基づいた具体的な感染予防対策案を提示することを目的として、HEV感染に対する高精度・高感度の核酸診断法および抗体検査法を開発し、その有用性を検討した。特に、イムノグロブリン別にHEV抗体を測定し、急性期のE型肝炎の血清診断において、IgAクラスHEV抗体の測定が感度および特異性において最も優れていることを明らかにした。2003年に研究代表者らは、国内の飼育ブタでHEV感染が蔓延し、生後5ないし6ヶ月のブタの90%がHEV抗体を保有していることを報告したが(J Gen Virol,84:851-862,2003)、HEVの感染源および感染経路の研究において、HEVに汚染されたブタ肝臓あるいはブタホルモン(大腸・小腸)を生、あるいは加熱不十分な状態での摂取がE型肝炎の発症と密接な関係があることを明らかにした。また、飼育ブタに比べると感染率は低いが、野生のイノシシやシカでもHEV抗体やHEV RNAが検出され、それら動物も感染源となっている可能性を示した。さらに、肝機能異常を示す献血者の一部からHEV RNAを検出するとともに、輸血後にHEVに感染した患者から分離されたHEVと、輸血に用いられた血液の保存パイロットから分離されたHEVの塩基配列が100%一致していたことを明らかにし、稀ではあるが輸血に伴うHEV感染が存在することを実証した。
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