これまでに、クラスIAフォスフォイノシタイド3リン酸キナーゼ(PI3K)ノックアウトマウスにおいて皮下の肥満細胞は正常に分化するにもかかわらず、消化管肥満細胞が欠損することを見いだし、本研究ではなぜPI3Kノックアウトマウスにおいて消化管肥満細胞のみが欠損するのかを明らかにすることをめざしてきた。昨年までに、限界希釈法を用いて肥満細胞前駆体の数を数量化し、その結果、骨髄における前駆体の数は野生型と差が見られないが、腸管における先駆体の数が野生型と比較して約1/10であることを明らかにした。また、培養肥満細胞を用いたシグナル伝達系の解析から、肥満細胞の分化や増殖に重要な増殖因子SCFの受容体であるc-kitの下流のシグナルに障害があることが明らかになった。これらの事実は腸管において前駆体の増殖生存を維持する因子に障害があるか、あるいは前駆細胞の移動に障害がある可能性を示唆する。後者に関して精査したところ、腸管への移動に重要と考えられるインテグリンの一つであるα4β7インテグリンとそのリガンドであるMAdCAM-1の相互作用がPI3K依存的であり、ノックアウトマウスではこの接着が弱いことが明らかになった。これに加え、重要な増殖因子SCFの受容体であるc-kitの下流のシグナルに障害があることが腸管における肥満細胞の著減の原因であることが示唆された。
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