研究概要 |
本研究は,職業性ストレスとがん罹患との関連性とそのメカニズムを明らかにすることを目的として,2つの前向きコホート研究(既存コホートデータと新規コホート)および職業性ストレスとがん罹患の媒介要因(免疫機能,抗酸化能などの生理指標および食事等のがん関連保健行動)との関係についての小規模な追跡研究を実施している。平成19年度は以下の研究を実施した。 1.がん関連の生物学的指標との関連(川上):従業員男女431名に対して,職業性ストレス調査票に記入を求めると同時に採血,採尿を実施し,ストレス感受性遺伝子である5-HTTPRL遺伝子多型およびがん,虚血性心疾患の指標である抗酸化能マーカー(8-0HdG)を測定した。結果として,男性では組織の公正性のうち,対人的公正が低い場合に,女性では仕事の要求度。コントロールモデルによる仕事のストレインが高い場合に,尿中8-0HdG濃度が高いことが示された。5-HTTPRL遺伝子多型は,8-0HdG濃度と関連を示さなかった。 2.労働者コホートの追跡データを解析し,仕事の要求度,コントロールモデルによる仕事のストレインが高い場合に,全がんの罹患率が高いことが示された。この関係は,他の生活習慣など交絡要因を調整した後も,職種(事務系,現場系)別の分析でも,がんの部位(胃がん,それ以外)の分析でも確認された。 本年度までの研究から,職業性ストレスは全がんの罹患リスクを増加させる可能性があることが示唆された。そのメカニズムの一部として,職業性ストレスによるDNA酸化があると考えられた。一方,食事や生活習慣は,職業性ストレスとがん罹患をつなぐ媒介変数としては大きな役割を果たしていないと推測された。
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