研究概要 |
わが国ではパートタイマー等短時間労働者が増加した結果、年間総労働時間は減少しているように見えるが、長時間残業をする過重労働者の比率はむしろ増えつつある。またパートタイマーや派遣労働者など雇用関係の多様化が進んでいる。そこでこういう状況が労働者の健康に及ぼす影響を検討し、以下の結果を得た。 まず情報関連企業において以下の一連の研究を行った。(1)時間外労働時間と気分不調、抑うつ症状、身体症状等について、過重労働はこれらの症状に関係するが、それは睡眠時間の短縮が直接に関係した結果と考えられた(Nishikitani et al., Ind Health)。(2)脈波伝播速度(baPWV)は年齢、肥満度、コレステロール、血糖値等と関係していたが、JCQでみた労働負荷とはむしろ負の関係であった(Nomura et al., Scand J Work Environ Health)。(3)疲労、倦怠感、腰痛、下痢、睡眠障害、焦燥等の症状がある者は心拍変動(HF,CVrr)でみた副交感神経系の抑制が観察された(Karita et al. Int Arch Occup Environ Health)。(4)時間外労働が長く睡眠時間の短い重度の過重労働者は、そこまでに至らない者や対照群に比べ、身体動揺の範囲や速度が大きかった(Karita et al. J Occup Health)。(5)Siegristのモデルによる努力報酬不均衡(ERI)は過重労働者の疲労感と関係していたが、それはOver-commitmentの者により顕著であった(Takaki et al., J Occup Health)。 また別の現業職場の調査で交替制勤務者は日勤者に比べ有意に心電図QT時間が長かったが、交感神経機能は日勤者とは異なった関係を示した(Murata et al., Int Arch Occup Environ Health)。自治体職場の調査で、身体感覚の増幅と仕事のストレスや周囲からの支援の乏しさとの関係には性差があり女性で顕著であった(Nakao et al., Women Health)。研究職場での調査で健診時の疲労、腰痛、めまい、吐気の身体症状はその後のうつ発症に関係している事が示されたNakao Yano. J Affect Disord)。同職場における任期制職員は正規職員に比べ労働時間が長く、疲労度も高いこと、身分にかかわらず長時間労働者の多い職場では疲労度が高いことが示された(Nakao Yano. Public Health)。
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