研究概要 |
本研究では,アスベストの免疫系への影響を検討することにより,珪酸曝露により生ずる自己免疫疾患(珪肺症に合併)ならびにアスベスト由来の悪性腫瘍発生(肺癌や悪性中皮腫)における免疫学的側面を明らかにするとともに,自己寛容の破綻や腫瘍免疫の減弱等の現象を実験系ならびに将来的には症例においても明らかにすることを目的として遂行中である。平成16年度においては,実験系としてHTLV-1不死化ヒトポリクローナルT細胞株を用いて,(1)短期高濃度曝露によるアポトーシスの出現と活性酸素種の関与,抗酸化剤の効果の検討,(2)低濃度長期曝露モデルの構築と網羅的遺伝子発現の差異の観察,(3)同様の低濃度慢性曝露モデルにおけるアポトーシス関連遺伝子の発現の解析とサイトカイン産生の差異の検討などを行ってきている。結果としては,(1)においては,ミトコンドリア系のアポトーシス経路の関与,p38,JNKなどのMAPキナーゼ系アポトーシス誘導シグナルの活性化,抗酸化剤によるアポトーシスの減弱などを見出してきている。(2)については,短期(3〜4日)曝露でアポトーシスを起こす濃度のクリソタイルは50μg/mlであったが,5〜10μg/mlで,8ヶ月〜1年の曝露を行うと,その後,50μg/mlの曝露を行っても,アポトーシスを殆ど生じないように細胞の性質が変化したことが窺われてきている。この株を抵抗性株と名付けて,現在は,親株との性質の差異を,遺伝子発現(網羅的解析ならびにアポトーシス関連遺伝子),サイトカイン産生等の項目で検討中である。次年度は,これらの検討をより詳細に行い,T細胞のアスベスト誘導アポトーシス抵抗性に関わる因子を抽出し,その機能の解析も踏まえて行いたいと考えている。
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