本年度は、様々なナノ材料の吸収曝露毒性影響評価に資するために、1)肺胞壁を模した肺胞上皮細胞・血管内皮細胞培養系を作製し、2)その培養系を用いてナノ粒子とサブミクロン粒子の肺胞上皮細胞による認識機構の相違の解明と肺胞壁通過機構の解明をすることを目的として、以下の成果を得た。 1)ラット由来の肺胞上皮細胞、肺毛細血管内皮細胞を用いて、線維状I型コラーゲン上にラットII型肺胞上皮細胞株を播種してマトリジェル存在下で基底膜を形成させたのち、培養ハウジングを逆にして裏側の線維状I型コラーゲン上に肺毛細血管内皮細胞を播種しすることにより、正常肺胞壁を模した2〜0.5μm厚の培養組織の作製に成功した。 2)粒径20nmと200nmの蛍光標識されたポリスチレン粒子と金コロイド粒子を培養組織に添加して、粒子の動態・通過機構・認識機構を検討した。蛍光強度の測定・蛍光/電子顕微鏡観察により、A)細胞間の結合部ではなく細胞に取り込まれた20nm粒子がわずかではあるが細胞層を通過するが200nm粒子は通過しないこと、B)200nm粒子や20nm粒子凝集塊はphagocytosisで上皮細胞に取り込まれ、20nm粒子はcaveolinを介さないpinocytosisで細胞に取り込まれることが明らかになり、核やミトコンドリアへの移行はなかった。 3)細胞毒性評価にはカーボン、カーボンナノチューブ、二酸化チタンを用い、肺胞上皮細胞に添加したが、凝集が激しく単独のナノ粒子のまま曝露することは困難であった。細胞内シグナル伝達分子の活性化としてNF-κBの核移行を、サイトカイン(IL-1b、IL-6、TNF)の分泌をELISAで検討したが検出されなかった。ストレスシグナルであるMAP kinaseのリン酸化がナノ粒子添加で検出されたが、抗酸化系酵素(HO-1)は検出されなかった。
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