研究概要 |
生体の免疫防御は多くの遺伝子が関与し、個体の遺伝的背景の影響を強く受けている。しかしながら、その個体差はどのような遺伝子の多型に基づいているのか、さらにはそれらが個体の様々な疾患に対する感受性と関係しているかは充分に分かっていない。本研究は、約4,000名の原爆被爆者集団における免疫関連遺伝子の多型を網羅的に解析し、末梢血中のT細胞サブセットの割合やサイトカインレベルを中心とした細胞性免疫指標との関連性を明らかにする。本年度は以下の成果が得られた。 1、癌既往歴のない広島、長崎の被爆者3,478名について、T細胞サブセットに及ぼす原爆放射線の影響を解析した。CD4T細胞の割合は1Gyあたり広島で1.6%、長崎で2.8%有意に低下していた。また、CD45RA+ナイーブCD4T細胞の割合も同様に1Gyあたり広島で5.6%、長崎で7.5%低下していた。これにより、CD4T細胞サブセットに対する原爆放射線の有意な影響が再確認された。 2、広島の被爆者442名について、炎症性サイトカインTNF-α、IFN-γ、IL-10(1Gy当り各々約7%,12%,6%上昇)の有意な放射線影響が見られた。 3、ほぼ全ての対象者からの遺伝子研究の同意書取得を完了した。現在、DNA抽出を開始し、TNFA, IFNG, TGFB, IL-10, CD14, CD45などの遺伝子のSNP解析を行っている。 本研究の対象者は疾患発症の追跡調査が過去40年以上に渡って行われ、将来も継続される。したがって、細胞性免疫指標と疾患リスク、あるいは免疫関連遺伝子の多型と疾患リスクの関係について断面研究ならびに前向き研究が可能である。
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