本研究では熱中症における脳神経障害に着目し、熱中症の脳内病態について脳内のタンパクと遺伝子の発現を形態学と分子生物学の両方の観点から捉え、熱中症患者の救命に寄与することを目的とする。また、法医解剖における熱中症の剖検診断は熱中症に特異的な病理所見がないために除外診断に基づいており、本研究によって熱中症に特異的な形態学的・生化学的変化が明らかになれば、法医鑑定の実務にも貢献できる。本研究は熱中症の病態解析に関する基礎的研究であり、熱中症モデルマウスと脳挫傷モデルマウスを用いて次の研究を実施する。1)熱中症の脳で発現するタンパクと遺伝子を解析する、2)熱中症(高体温)が脳挫傷に及ぼす影響を明らかにする。 1.脳挫傷マウスとコントロールマウスを全身麻酔し、40℃のインキュベータ中に45分問置いて直腸温を42℃とし、続けて37℃のインキュベータ中に15分間置いた後に室温に置き、直腸温が40℃以上の熱中症マウスとした。 2.熱中症マウスを全身麻酔し、リン酸緩衝化パラホルムアルデヒドで還流固定した。脳の切片についてc-fosの免疫組織化学を行った。その結果、熱中症では扁桃核にc-fosタンパクが発現することが判明した。熱中症による扁桃核のc-fos発現は、熱中症の診断に有用である可能性が示唆された。現在、熱中症マウスの脳からmRNAを抽出して脳内遺伝子の変動を解析中である。 3.マウス(系統ddy、雌、5週齢、体重30g)を全身麻酔し、頭蓋骨の頭頂骨を露出する。小動物用のベンチレータと非観血式血圧計を装着した状態で、液体窒素を硬膜に接触させて脳挫傷を作成した。 4.脳挫傷を伴うマウスを熱中症の状態とし、脳挫傷部分の色素漏出の程度を定量することで、熱中症(高体温)が脳挫傷に及ぼす影響を調べている。 5.これまでの研究成果は、国内の学術集会で口頭発表し、海外の英文雑誌に投稿中である。
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