研究概要 |
近年の画像診断や内視鏡などの進歩により、悪性腫瘍の早期診断や低侵襲手術療法はめざましい進歩を遂げた。その結果、早期癌の治療成績は著明な改善を示している。しかしながら、発見時に既に進行している癌の治療成績は、一部を除き以前に比べて大きな改善を見ていない。よって進行癌で手術不能かつ化学療法無効例に対しては、新しい治療が望まれている。その中で最近腫瘍免疫療法が注目を集めている。 本研究の申請者である山下は、これまでに第IV期悪性黒色腫患者10名と遠隔転移を伴う甲状腺癌患者6名に対し、腫瘍溶解液を抗原とする樹状細胞療法(第I相臨床研究)を行っている。臨床経過は悪性黒色腫ではstable disease1名,mixed response2名,progressive disease7名であった。甲状腺癌ではstable disease2名,progressive disease4名であった。悪性黒色腫でmixed responseを示した2例では、多数の転移巣の壊死とそれに続く腫瘍の縮小あるいは消失が認められた。病理学的な検索の結果、壊死は腫瘍血管の障害によって生じている可能性が高いことが判明し、壊死は液性因子によって生じている可能性が示唆された。本研究の目的は以下の通りである。(1)悪性腫瘍に対する樹状細胞療法により惹起される液性因子、特に抗体に着目し、治療による誘導と腫瘍壊死反応とについて検索する。(2)抗体の結合する蛋白をプロテオミクス等を用いて同定し、これを抗原とする新しい樹状細胞療法を実施する。(3)新しい樹状細胞療法実施のために、無血清で培養したGMP基準の安全で質の高い樹状細胞の作製技術を確立する。(4)同定された腫瘍壊死反応にかかわる抗体を用い、モノクローナル抗体療法や放射性物質を抗体に結合した腫瘍標的療法などの、さらに簡便で新しい治療法の開発を検討する。 悪性黒色腫患者の凍結保存してある腫瘍を融解してホモジェナイズし、蛋白を抽出した。蛋白を電気泳動した後、1:100に希釈した患者血清を加えヤギのペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体を作用させ、ウエスタンブロットを行った。その結果47kDと27kDのバンドが確認された。これまでの検討により、27KDのバンドはcarbonic anhydrase IIに対応すること、47kDのバンドはα-enolaseに対応することが明らかとなった。治療反応性と抗体の変化を調べたところ、悪性黒色腫で臨床的な反応が認められた3症例において、治療後にcarbonic anhydrase II (CAII)に対する抗体価が上昇していた。無反応例では抗体下の上昇は認められなかった。またα-enolaseの抗体価は治療に対する反応性とは関連がなかった。CAIIの意義をさらに明らかにするため、腫瘍の免疫組織化学を行った。その結果、CAIIは悪性黒色腫の腫瘍血管内皮特異的にその発現が増加していることが判明した。
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