研究概要 |
腸内細菌の宿主への定着という現象は、成長後の様々な生理機能に関与している。本研究では、腸内細菌定着が、成長後の情動行動に如何なる影響を及ぼすかについて包括的に検討している。本年度は、腸内細菌定着がストレスに対する視床下部-下垂体-副腎軸(HPA axis)の反応性へどのように関与しているか、について無菌(germ free : GF)マウスおよび様々な単一細菌で構成された人工菌叢マウスを用いて検討した。平成17年度の研究成果を以下にまとめる。 1.GF,SPFマウスにおいてグルココルチコイド抑制試験を行った。すなわち両群マウスにあらかじめ各濃度のコルチコステロンを投与し、HPA axisのストレス反応がどのように変化するか、について比較、検討した。その結果、GFマウス、SPFマウスのID50(50%抑制するのに必要なコルチコステロン量)は、それぞれ、3.65mg/kg、0.98mg/kgであった。この結果は、GFマウスにおけるHPA axis高反応性をさらに裏付けるものであり、GFマウスにおけるフィードバック機構の機能不全を示唆するものである。 2.母マウスの児に対する行動、いわゆるmaternal behaviorは、成長後のHPA axisの制御に影響をあたえることが知られている。そこで、出産後の母マウスのmaternal behavior(licking & grooming, arched-backed position)についてGF,SPFマウスで比較、検討した。その結果、観察したいずれの行動においてもGF,SPFマウス間で違いは認めなかった。以上の結果は、GFマウスにおけるHPA axisの高反応性は、maternal behaviorを介した経路とは異なるメカニズムにより生じている可能性を示唆するものである。
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