研究概要 |
腸内細菌の宿主への定着という現象は、成長後の様々な生理機能に関与している。本研究では、腸内細菌定着が、成長後の情動行動に如何なる影響を及ぼすかについて包括的に検討している。本年度は、脳内神経伝達物質および行動特性について無菌(germ free : GF)マウスおよび単一細菌で構成された人工菌叢マウスを用いて検討した。平成18年度の研究成果を以下にまとめる。 1.脳内神経伝達物質濃度 specific pathogen free(SPF)マウス、GFマウス、およびBifidobacterium infantis(BI)、Bacteroides vulgatus(BV)単一細菌マウスにおける脳内norepinephrine, serotonin濃度を測定した。その結果、GFおよびBVマウスではSPFマウス、BIマウスと比較し、cortex, hippocampus CA3領域でのnorepinephrine濃度が有意に低かった。またBVマウスでは、cortexにおけるserotonin濃度が他のマウスと比較し、著明に低下していた。一方、脳内各部位でのGABA濃度に関してはマウス群問で違いは認めなかった。cortex, hippocampusはHPA axisの機能制御を司るばかりでなく出生後に成熟、発達する代表的な部位であることより、GFマウスではnorepinephrine, serotonin系神経の脳内神経分布が十分に発達していない可能性を示唆している。 2.行動特性:運動能 GF, SPFマウスにおいてmotor activity(運動能)を測定した。具体的にはビニールアイソレーター内で3世代継代したGFおよびSPFマウスの運動能力を行動解析機器(室町機械(株))を用いて測定した。GFマウスでは、同週齢のSPFマウスと比較し、有意にその運動能が高かった。また人工菌叢マウスによる検討では、一部の嫌気性菌のみで構成されたマウスでは、SPFと同程度の運動能を示していた。以上の結果は、腸内細菌叢の違いにより、成長後の行動が変化することを示唆しており、特に無菌状態では、いわゆる多動を示すことが明らかとなった。
|