研究概要 |
われわれは、ヒト心不全およびマウス心不全モデルにおいてマスト細胞、幹細胞因子(SCF),c-kit(SCF受容体)の変化を検討し、心筋炎におけるマスト細胞、SCF-c-kitの関連について調べた。 【方法】 ヒト心不全および脳心筋炎ウイルス性(EMCV)心筋炎マウスの心臓において、マスト細胞数を測定し、SCF, c-kitは定量的PCR法により検討した。2系統のマスト細胞欠損マウス((1)W/W^V : c-kit受容体欠損 (2)Sl/Sl^d : SCF欠損)とその対照マウスに対し、EMCVを接種して心筋炎モデルを作成し、7日後の心臓の組織的所見、14日後の生存率を検討した。さらに、これら2系統のマウスに対しそれぞれの方法でマスト細胞を再構築させて、同様に心筋炎モデルを作成し、心筋炎組織の評価と、マウスマスト細胞プロテアーゼ(mMCP)-4,-5,メタロプロテアーゼ(MMP)-9の遺伝子の発現を検討した。 【結果】 ヒト心不全およびEMCV心筋炎マウスにおいてマスト細胞数が増加し、SCF発現が亢進することが明らかとなった。W/W^V、Sl/Sl^d群では、生存率は良好で、炎症細胞浸潤、壊死ともに軽度であった。マスト細胞を再構築させた群では、炎症細胞浸潤、壊死ともに悪化を認めた。さらに、mMCP-4,-5,MMP-9の遺伝子発現は、マスト細胞を再構築させたW/W^V群では、その対照群に対して、有意に上昇した。 【総括】 心不全、心筋炎においてマスト細胞,SCF, c-kit系が活性化し、マウスウイルス性心筋炎において、マスト細胞による線維化の課程が、急性期に始まっているということが示唆され、マスト細胞活性化抑制や、SCF-c-kitシグナル伝達の制御により心不全、心筋炎の治療が可能となることが示唆された。
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