高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などの生活習慣病は、多因子疾患と考えられている。その成因として『多くの遺伝子の微妙な機能変化が複合して"疾患感受性"を決定すると同時に、それらの機能変化が食事などの環境因子によって大きく影響を受ける』という仮説が広く提唱されてきた。そこで、本研究は、(1)この仮説に対するドグマ(定説)を確立すること、(2)ヒトゲノム研究との連携のもとに横断的かつ基盤的な科学的根拠を収集し、生活習慣病の貴重な研究資源を社会に提供すること、を主たる目的とした。 本研究の成果概要は以下の通りである。 (1)高血圧自然発症ラット(SHR)系統に由来する、14系統のコンソミック・ラット(高血圧ラットおよび対照ラット間で、注目する染色体を全体として組み換えたもの)を完成し、代謝関連形質(高血圧および脂質、脂肪重量など)の遺伝子座を特定染色体断片上に単離することに成功した。 (2)ラットに薬物負荷(計5種類の降圧薬とインスリン抵抗性改善薬、脂質低下薬)および食餌負荷(高脂肪食、食塩負荷)を行い、5つの標的臓器(脳、心臓、腎臓、肝臓、脂肪)に関するDNAマイクロアレイを用いた体系的発現解析を行った。 (3)合わせて、(1)で作成したコンジェニック系統でも体系的発現解析を行い、代謝関連形質に影響するネットワークの鍵分子(群)を探索し、候補分子に関する機能解析を行った。 最終的には、こうして同定されてきた各々の感受性遺伝子が、どのようなフィードバック・システムの調節破綻で疾患形質を生ずるのか(メカニズム)を、細胞から臓器、そして個体レベルでの一連の検討につなげるべく研究をさらに発展させていきたい。
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