本研究の目的は、DNAチップによる遺伝子発現プロファイル解析技術を用いて、肺癌の遺伝子発現を包括的に解析し、各正常組織(成人・胎児)に比較して肺癌細胞特異的に高発現する遺伝子を同定することであり、研究協力者の油谷浩幸教授(東京大学・先端科学技術研究センター)との共同研究で、研究を進めている。肺癌の細胞株および手術摘出腫瘍を材料として、DNAチップ(Affymetrix社製GeneChip)を用いて、包括的な遺伝子発現プロファイル解析を行って、正常肺組織を含む各正常組織(成人および胎児)に比較して肺扁平上皮癌細胞に高発現する転写産物を複数検出した。この中で、aldo-keto reductase family proteinであるAKR1B10に着目して解析を進めた。すなわち、DNAチップ・データの検証のため、半定量的PCR法によって、肺癌細胞株および肺癌手術摘出腫瘍、正常肺組織を含む各臓器正常組織におけるAKR1B10の遺伝子発現を解析したところ、AKR1B10は肺癌、とくに扁平上皮癌に高発現することが明らかになった。この結果は、AKR1B10特異的抗体を用いた免疫組織化学染色でも確認された。すなわち、肺非小細胞癌手術摘出腫瘍を解析した結果、腺癌に比して扁平上皮癌で高頻度に発現を認めること、肺非小細胞癌全体および肺腺癌において喫煙がAKR1B10発現と有意で独立した関係を示すこと、肺扁平上皮癌の前癌病変である扁平上皮化成においてもAKR1B10発現を認めることが明らかとなり、喫煙者に肺癌が発生する際の診断マーカーになる可能性が示された。また、この分子が肺癌のタバコ発癌に関与する可能性も示唆された。
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