研究概要 |
本研究は、患者への侵襲・負担を軽減する先進医療(診断・病勢把握・治療技術)の確立に向け、特定の病態応答遺伝子の制御配列を分子センサーとして用いることにより、鋭敏かつ特異性の高い生体内バイオセンサーを臓器局所に構築することを目指す。具体的には血液中の外来マーカータンパクのレベルを測定することで病勢を適宜チェックし、病態の変化を早期に認知しうる簡便な病勢監視システムの開発を最終目標とする。本年度は糸球体腎炎をモデルとし、実際に局所の炎症活動性のモニタリングがこうしたバイオセンサーシステムにより侵襲的に行いうるのかを検討した。分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)および分泌型メトリジアルシフェラーゼ(MLuc)を炎症に即応して活性化される遺伝子制御配列(NF-κB結合配列)の下流に挿入して作製した発現プラスミドを培養ラットメサンギウム細胞に導入し、安定なセンサー細胞を樹立した。これらの細胞を正常ラットの糸球体および急性糸球体腎炎(Thy1腎炎)を誘発したラットの糸球体内に経腎動脈的に移送し、その後の血中のSEAPおよびMLuc活性を経時的に測定した。正常ラットの糸球体にSEAPをベースにしたセンサー細胞を導入した場合、血中のSEAP活性に変化は認められなかったが、炎症下の糸球体に導入した場合には血中のSEAP活性は有意な上昇を示し、しかもその経時変化は糸球体腎炎の病理学的な変化に相応する動態を示した。このセンサー細胞をThy1腎炎を惹起したラットの腹腔内に移植した場合には、血中SEAP活性の上昇は全く認められなかった。一方、MLucをベースにしたセンサー細胞を炎症下の糸球体に導入した場合、血中のMLuc活性は全く上昇を示さなかった。更なる検討を行ったところ、分泌型ルシフェラーゼMLucはSEAPと異なり、血中のアルブミン分子の存在により瞬時に不活化されることが判明し、そのin vivoでの有用性の限界が明らかになった。以上の成果は、分泌型リポーター分子と特定の病態に反応して活性化される遺伝子配列とを組み合わせることにより、特定疾患の局所の病勢を、継続的に、侵襲的に、かつ安価簡便に行いうることを示した初めての知見であり、その意義は大きいと考える。なお本研究に関連した成果は、今年度Anal Biochem, Kidney Int, Lab Invest, Clin Exp Immunol,およびJ Immunolに論文として発表した。
|