研究概要 |
小胞体ストレスは、腎疾患をはじめ種々の病態の発症進展に寄与することが示唆されている。われわれは、ER stress-responsive alkaline phosphatase(ES-TRAP)を安定に発現分泌する種々の細胞において、またES-TRAPを発現する動物個体(トランスジェニックマウス)において、小胞体ストレスが培養上清中および血中のES-TRAP活性を極めて鋭敏かつ迅速に抑制する事実を見出した。そしてこの知見をもとに、in vitroおよびin vivoにおいて小胞体ストレスを高感度かつ継続的にモニタリングしうる新しいシステム、ES-TRAP法を確立した。今年度はこのES-TRAP法を用い、腎機能不全を惹起する病態(重金属による急性尿細管障害、敗血症)における小胞体ストレスの役割と小胞体ストレス応答に関わる細胞内シグナル伝達系を検討した。その結果、カドミウムおよびエンドトキシンへの全身的曝露により腎臓をはじめ種々の臓器で一過的に小胞体ストレスが惹起されること、またES-TRAPマウスを用いることによりin vivoにおける小胞体ストレスの推移をリアルタイムに近い形かつ非侵襲的にモニタリングすることが可能なことを明らかにした。また腎尿細管細胞を用いたER-TRAP法を用い、1)カドミウムによって引き起こされる小胞体ストレスがアポトーシスの誘導に重要な役割を担っていること、2)小胞体ストレス応答の主要3経路のうち、ATF6とIRE1を介する2経路がアポトーシスを誘導し、PERKの経路はむしろアポトーシスに対し抑制的に働くこと、3)ATF6とIRE1の下流ではCHOP, JNK, XBP1がアポトーシスの誘導に寄与すること、また4)カドミウムは活性酸素種の生成を介して小胞体ストレスを誘導し、その過程にはスーパーオキサイドが主要な役割を担っていること、等を明らかにした。
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