私たちは先にアデノヴィルスベクターを用いて初代培養神経細胞にポリグルタミン病タンパク質を発現する系を確立した。これを用いて、異なる3種類の神経細胞(大脳、線条体、小脳)に2種類の疾患蛋白(ハンチンチン、アタキシン1)を発現させた場合に生じる遺伝子変化をマイクロアレイ用いて解析した。この結果、ハンチンチンが小脳細胞特異的にHsp70の発現をあげることを見い出した。そこで、本研究ではこの特異的なHsp70発現調節機構を探ることを第一の課題とした。これまでに、Hsp70の発現調節に関わることが知られているHSF1については3種類の神経細胞で発現変化に差はないこと、またHSF1の核移行についてもやはり差がないことを確認した。したがって、特異的発現調節にはHSF以外の転写因子の関与が考えられる。候補となる複数の転写因子のポリグルタミン蛋白発現下の動態を解析して小脳特異的発現を説明しうるものを選別する作業と上流域のプロモーター解析を併せて現在研究を進めている。 また、PQBP1の結合するRNAポリメラーゼII上のアミノ酸配列を模した合成ペプチドIPQ1は転写促進作用を有することをBrUアッセイによって確認した。さらにポリグルタミン蛋白の毒性に対しても培養細胞レベルでは抑制効果を示すことを予備的に観察している。今後はショウジョウバエやマウスなどの動物モデルを用いて、その効果を確認することを予定している。 転写障害を改善する薬剤のスクリーニングについてはショウジョウバエモデルの準備を進めている。今後候補薬剤をBrUアッセイでスクリーニングした後に、vivoでの効果を見て行く。
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