本研究ではポリグルタミン病態において数多くの実験結果がサポートする転写機能異常の詳細を明らかにするために、異常蛋白発現下の初代培養神経細胞の遺伝子発現プロファイルの網羅的な解析を行った。大脳、小脳、線条体から準備した3種類の初代培養神経細胞にハンチンチンおよびアタキシン1をウィルスベクターにより発現させた。この6種類の組み合わせについて、正常および異常ポリグルタミン発現、モックウィルス感染の3処理を行い、マイクロアレイの結果を比較して、遺伝子特異的変化、神経細胞特異的変化、2種の疾患遺伝子に共通した変化を検出することを試みた。この結果、疾患耐性の神経細胞では病態において保護因子と考えられるhsp70の発現が上昇していることが明らかになった。hsp70はシャペロン分子として異常ポリグルタミン蛋白の構造変換に関わり、細胞実験あるいはトランスジェニックマウスの掛け合わせから、多くの報告がポリグルタミン蛋白の毒性を緩和すると報告している。私たちの実験からはhsp70は小脳細胞(顆粒細胞)において異常ハンチンチンを発現した場合に正常ハンチンチンを発現した場合と比較して27倍もの発現上昇が見られるものの、他の神経細胞あるいはアタキシン1では2倍以下の変化に止まった。さらにWestern blotでも蛋白が約8倍に上昇することが確認できた。続いてhsp70の発現上昇をRNAiを用いて抑制すると小脳細胞の異常ハンチンチンへの抵抗性が失われること、大脳神経細胞にhsp70を過剰発現すると抵抗性を獲得することを認めた。また、発現上昇のメカニズムを解析し、HSF(heat shock factor)は直接関連せず、別の抑制性転写因子が核内封入体に取り込まれることで、転写抑制解除が起きていることが判明した(投稿準備中)。
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