研究概要 |
近年,福山型先天性筋ジストロフィーをはじめとする先天性筋ジストロフィーにおいて遺伝子異常が相次いで明らかにされた.これらの疾患は,αdystroglycanの糖鎖修飾の異常により基底膜のlamininとの連携が断たれることがその筋細胞壊死の原因と推測されている.またsarcoglycanopathyと総称される重症の筋ジストロフィーではdystroglycanを介する細胞外基底膜と細胞膜の架橋構造を破綻させる蛋白分解酵素の関与が示唆されている.本研究では先天性筋ジストロフィーの分子発病機序とその治療法を開発することを目指して,以下の点を明らかにした. (1)βdystroglycanの細胞外ドメインを切断するプロテアーゼとしてMMP-2とMMP-9を同定した.MMP-2とMMP-9によるβdystroglycanの細胞外ドメインの分解によりdystroglycanを介する細胞外基底膜と細胞膜の架橋構造が破綻することが予想される.従ってこれらの蛋白分解酵素を抑制することが筋ジストロフィーの治療法として応用し得る可能性がある. (2)fukutin欠損キメラマウスを用いた実験からαdystroglycanが末梢神経の髄鞘形成と神経筋接合部の形態形成に関与すると考えられた.同様の病態はヒトにおけるαdystroglycanopathyおいても存在しているものと推測され,今後これらの疾患においても末梢神経障害の検討が必要と考える. (3)培養細胞に発現するαdystroglycanはprotein convertaseにより切断され,そのN末端ドメインはα-DG-Nとして培養上清中に分泌されていることを示した.生体においてはα-G-Nは血清,脳脊髄液等の体液に存在していることを明らかにした.今後,各種の神経筋疾患で血清,脳脊髄液のα-DG-Nの濃度に異常がないか検討する必要がある.
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