研究概要 |
研究代表者らは、多発性硬化症(MS)の末梢血T細胞の遺伝子発現プロフィルをDNAマイクロアレイで解析し、インターフェロン(IFN)で誘導される遺伝子(J.Neuroimmunol.139:109,2003)やMSの病態に関連して発現が亢進あるいは低下する遺伝子(Neurobiol.Dis 18:537,2005)を同定することに成功した。この中には、アポトーシス関連遺伝子、免疫寛容関連遺伝子、抗炎症性蛋白をコードする遺伝子などが含まれていた。本研究では、DNAマイクロアレイで同定されたMS関連遺伝子およびIFN治療関連遺伝子の機能的意義の解明と、それらを標的とする治療法の開発を目指した。MS関連遺伝子の中では、特に転写因子NR4A2(Nurr1)に関する検討を進めた。同遺伝子はT細胞活性化1時間以内に誘導される早期遺伝子である。NR4A2の標的遺伝子としてTh1サイトカインの一種であるオステオポンチン(OPN)が存在する。そこでNR4A2とOPNの発現量を測定したが、両者の間に相関関係は認められなかった。NR4A2と強く相関する遺伝子には、NFkBの特異的な標的遺伝子であるIKBアルファとIKBイプシロン、あるいはTNFで誘導されるTNFAIP3が見られた。以上の結果から、TNF刺激でNFkBが誘導され、その結果、一連の炎症関連遺伝子群が誘導される可能性が強く示唆された。MS治療における抗炎症療法の有用性を示唆する結果である。 一方、IFNで誘導される遺伝子の中には、炎症性サイトカイン(IL-6など)や炎症性ケモカイン(CXCR3リガンドなど)遺伝子が多く含まれており、IFNの早期副作用を説明する結果であった。以上の結果は、MS医療における抗炎症療法の有用性を示唆する。特にIFNの導入時には、漸増法やステロイド併用療法などの工夫が必要である。
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