研究概要 |
ガングリオシド特異的形質膜シアリダーゼ(NEU3)遺伝子過剰発現マウスが著明なインスリン抵抗性を伴う糖尿病を示すことを,我々は見出した.また,NEU3遺伝子欠損マウスは耐糖能正常であり,高脂肪食負荷によりコントロールマウスでは,耐糖能障害,インスリン抵抗性,膵β細胞の過形成が誘導されるのに対して,高脂肪食負荷に抵抗性を示した.さらに,2型糖尿病患者においてNEU3遺伝子の変異を検索したところ,2型糖尿病患者で正常者に比べて有意に高頻度で,かつインスリン感受性とも相関を示す遺伝子多型を同定した.このように我々はNEU3とガングリオシド異常,インスリン抵抗性,さらに2型糖尿病発症との関連性を明らかにしてきた. 平成16年度は,アデノウイルスベクターを用いて,マウス肝臓にNEU3を過剰発現させ,In Vivoでの耐糖能とインスリン感受性の変化を検討した.すなわち,ヒトNEU3アデノウイルスベクターをC57BL/6Jマウス尾静脈より静注し,肝にNEU3を過剰発現させた.糖負荷試験で耐糖能を評価したところ,耐糖能の有意な改善を認めた.さらに,インスリン負荷試験でもインスリン感受性の有意な改善を認めた.さらに,2型糖尿病モデルマウスである,KKAYマウス,高脂肪食負荷マウスでも,NEU3を肝臓に過剰発現させると,耐糖能とインスリン感受性の著明な改善を認めた.これらのマウス肝臓のガングリオシド組成を解析すると,GM3の著明な減少,GM1,GM2の増加を認めた.インスリン受容体,IRS1などインスリンシグナル分子の発現増加とインスリン刺激時のチロシンリン酸化の亢進を認めた. NEU3はガングリオシド代謝を介して,インスリンシグナルを調整する分子機序が明らかになった.
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