研究概要 |
造血器腫瘍における異常シグナル伝達を解明し、(1)治療の標的となりうる分子を明らかにすること、(2)特異性の高いキナーゼ阻害剤を開発し、臨床応用に向けた基礎研究・前臨床研究を行うことを目的とした。 (結果と考察) ●近年、骨髄増殖性疾患(MPD)とりわけ真性多血症から高頻度にJAK2キナーゼのV617F変異が見出されている。我々はMPDから急性白血病に移行した7例について、その分子病態を解析し、いずれもV617F変異を有するが、FLT3,N-RAS,p53など他の変異は認めないこと、一定の染色体異常を認めないこと、1例ではALLが発症していたことを明らかにした。JAK2は優勢型変異であり、MPDの発症に最も基本的かつ安定的な変異であり、有望な標的分子であることが確認された。 ●昨年見出されたNPMに関しても研究を進めた。de novo急性骨髄性白血病の1/4の症例において、C末におけるフレームシフト変異が見出され、いずれも場合も4bpの挿入により、フレームシフトが生じていること、変異はM3を除くすべての病型に見出されること、正常核形に多いこと、FLT3遺伝子変異と強く相関すること、化学療法に反応性が高いことなどを明らかにした。変異NPM1は、COS細胞への強制発現系では核小体のみならず、核全体や細胞質に局在が広がること、また変異によって特定のリン酸化を受けないことから、変異NPMには局在変位のみならず機能的な欠失があることを明らかにしつつある。 ●変異FLT3発現細胞株に対する特異的細胞抑制効果を指標に、2種類のリード化合物ならびに構造展開物を得た。このうち、このうち、B化合物の誘導体からは、FLT3のみならず、KIT、KDRに特異性の高い化合物が見出され、白血病細胞株移植マウスモデルにおいても延命効果を認めた。一方、A化合物の誘導体からも、恒常的に活性化したFLT3キナーゼに高い選択性と阻害活性を示す化合物が得られた。いずれも、白血病細胞株移植マウスモデルにおいて白血病の治癒が得られただけでなく、FLT3遺伝子変異を有するヒト白血病細胞に対してもnMレベルの低濃度で増殖阻害活性を示した。今後、毒性試験や薬効や栗試験を通れば、極めて有望なキナーゼ阻害剤となりうると考えられた。
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