幹細胞システムにおける細胞分化機構を解析するために、マウス胚性幹細胞をストロマ細胞OP9上で共生培養することにより血液細胞へと分化誘導する方法(OP9システム)と、コンディショナルな遺伝子発現を組み合わせた方法を用いて、血液細胞の発生・分化に必須であるGATA-1、GATA-2、Runx-1といった転写因子、および、GATA-1のコファクターであるFOG-1の機能解析をおこなった。 Zinc finger型の転写因子であるGATA-1を欠損するES細胞を作成し、その細胞をOP9ストロマ細胞の上で共生培養することにより、赤血球系への分化誘導をおこなった。従来、GATA-1を欠損した場合、赤血球系の細胞は前赤芽球の段階で細胞死がひきおこされることが報告されていたが、OP9ストロマ細胞上では、前赤芽球を長期間にわたって維持できること、また、この維持にはエリスロポエチン(EPO)とOP9ストロマ細胞の両方が必要であることが明らかとなった。このGATA-1欠損前赤芽球において発現する遺伝子、ならびに、サイトカイン受容体の発現を解析したところ、赤血球系の細胞に発現する遺伝子だけでなく、骨髄系の細胞に発現する遺伝子も発現していることが明らかとなった。そこで、この細胞を、EPOではなく、GM-CSF(顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子)やIL-3(インターロイキン-3)存在下で培養したところ、赤血球系に運命づけられている細胞が、それぞれ、顆粒球・マクロファージやマスト細胞に「異分化、transdifferentiation」することを見いだした。この結果は、赤血球系の終末分化に必須な転写因子であるGATA-1を欠損させることにより、赤血球系の細胞が、分化形質を維持したまま自己複製能を獲得し、長期間にわたって維持できることを示している。 また、他の転写因子の解析から、転写因子の機能は、細胞分化のコンテキスト依存的であることが明らかとなった。
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