サイトカインは細胞分裂を促進し、アポトーシスを抑制する。造血細胞の場合、サイトカイン受容体からの信号はアポトーシスを誘導するBcl-2ファミリー因子であるBim、および細胞分裂を抑制するp27の発現を抑制して細胞の増殖を促進する。この抑制機序はmRNA発現レベルで生じることから当初転写調節機構の関与が考えられた。実際、細胞系統によっては、特にp27で転写調節が関与しているが、Bimにおいては転写調節の関与は少ないことが明らかとなり、むしろIL-3受容体下流の信号によりmRNAが不安定化されるシステムの存在が示唆されるに至った。そこでわれわれは本科研費の助成を受け、サイトカインによるBimやp27のmRNA不安定化のメカニズムの解明を試みた。 mRNA不安定化システムの中心はヒートショック関連蛋白質Hsc70であることが判明した。Hsc70はサイトカイン非存在時にはBimやp27のmRNA3'非翻訳領域に結合しmRNAを安定化する機能を果たしている。サイトカイン存在時にはmRNAとの結合能を失う結果、mRNAは不安定化し、発現レベルが低下する。サイトカインがHsc70のmRNA結合能を制御するメカニズムとして、コシャペロンが関与することが明らかになった。すなわちサイトカイン存在時には、Hsc70をATP結合型へと誘導するBag-4蛋白質の発現が増加する。また、Hsc70をADP結合型へと誘導するHipやHsp40が未解明の機序によりHsc70との結合能を失い、その結果Hsc70はmRNAとの結合能の弱いATP結合型に誘導されるものである。サイトカイン受容体下流の信号がコシャペロンとHsc70の結合能をどのような機序で制御しているか、なぜATP結合型とADP結合型でmRNA結合能に差異が生じるかなど、将来の研究課題として残された。
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