研究概要 |
近年我が国では小児アトピー性皮膚炎患者の著しい増加と難治化、成人化等が大きな社会問題となっている。これらの要因として、生活習慣の変化、アトピー性皮膚炎の発症機序が未だに明確でないこと、ステロイド外用薬に対する忌避と民間療法の濫用などが考えられる。また一方ではアトピー性皮膚炎の適切なモデル動物が少ないことも影響している。申請者はこのような背景において、日本産野生マウスから作出した近交系マウスKORの中にヒトのアトピー性皮膚炎によく似た症状を自然発症する個体を発見し、本変異マウスをNAD(Nippon Atopic Dermatitis)マウスと命名した。 NADマウスの初期病変は生後4-5週齢時に眼瞼の浮腫として認められ、その後浮腫は口唇と顔面全体におよび、同時に前肢による掻痒行動によって増悪する重度の湿疹と脱毛が顔面全体と首、前肢屈曲側に広がった。これらの症状はヒトのアトピー性皮膚炎に酷似していた。病理所見は、表皮の剥離、真皮の肥厚、マスト細胞、リンパ球の浸潤が認められた。8週齢時の血中IgE値は対照のKORマウスは雌雄ともに0.1μg/ml程度であるのに対してNADマウスは高IgE血症を呈し、雌5,200μg/ml、雄2,400μg/mlと雌の方がかなり高値であった。 今年度は、アトピー性皮膚炎原因遺伝子nadの染色体マッピングを行い、責任遺伝子nadをマウス第10染色体上のD10mit53の極近傍にあることを明らかにした。来年度はnad遺伝子のポジショナルクローニングを目指す。 また、本申請期間内の新規アトピー性皮膚炎モデル動物の樹立を目指し、系統育成中であるが、同時にnad遺伝子をTh2優位系、BALB/cマウスおよびTh1優位系、C57BL/6マウスなどのラボラトリーマウスに導入したコンジェニックマウスの作出も行っている。 なお、NADマウスの特許出願を平成14年9月に行い(特願2002-273447)、今年度は特許の審査請求を行った。
|