研究概要 |
今日、アトピー性皮膚炎患者の著しい増加と難治化、成人化、医療不信によるステロイド外用薬に対する過度の忌避、アトピービジネス・民間療法の氾濫等が大きな社会問題である。その根元は未だにアトピー性皮膚炎の発症機序が明確でないことにあり、またこれまでに適切なモデルマウスが存在しなかったこともその一因である。 申請者は野生からの新しい遺伝素材を実験動物に取り入れるため、日本各地で野生マウスを捕獲し、近交系化を行ってきた。これらの野生由来近交系マウスのうちKOR1(福島県郡山市)マウスにアトピー性皮膚炎を発症する個体を発見し、NAD(Nippon Atopic Dermatitis)マウスと名付けた。 NADが日本産野生マウスであることから、実験動物としての有用性を増すために、取り扱いやすく、また一般的なラボラトリーマウスに原因遺伝子を導入したコンジェニック系の作出を行った。コンジェニック系の作出には、6年の歳月と多大の労力を要したが、アレルギー抵抗性系のC57BL/6マウス、感受性系のBALB/cマウス、および免疫学的変異が知られているA/Jマウス、AKRマウスの計4系統に原因遺伝子を導入し、アトピー性皮膚炎コンジェニックマウスの樹立に成功した。これらのコンジェニックモデルは遺伝的背景の差異により、多彩な表現型を認め、アトピー性皮膚炎の病態解明、創薬、予防、遺伝子治療等に有用な情報を提供する。 NADマウスの原因遺伝子の探索は、BALB/cマウスとの交配F2約1,000匹を得て染色体のファインマッピングを行い、候補遺伝子の位置をマウス第10染色体上に絞り込み、Traf3ip2(TNF receptor-associated factor 3 interacting protein 2)であることを明らかにした。なお、NADマウスは埼玉県から特許出願し、現在審査中である(特許出願2002-273447)。
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