近年我が国では小児アトピー性皮膚炎患者の著しい増加と難治化、成人化等が大きな社会問題となっている。これらの要因として、生活習慣の変化、アトピー性皮膚炎の発症機序が未だに明確でないこと、医療不信に起因するステロイド外用薬に対する忌避と民間療法の濫用などが考えられる。また一方ではアトピー性皮膚炎の適切なモデル動物が少ないことも影響している。著者はこのような背景において、日本産野生マウス(モロシヌス)から作出した近交系マウスKORの中にヒトのアトピー性皮膚炎によく似た症状を自然発症する個体を発見し、本変異マウスをNAD(Nippon Atopic Dermatitis)マウスと命名した。 NADマウスは、種々の交配実験により、この症状は常染色体性劣性遺伝形式をとることがわかったので、NADマウスの繁殖・維持方法を確立すると同時に、NADマウスが日本産野生マウス由来であり、行動が俊敏なことから、取り扱いが容易な、いわゆるラボラトリーマウスに原因遺伝子を導入したコンジェニック系の樹立を目指し、7〜8年を要して遺伝的背景の異なる4系統アトピー性皮膚炎コンジェニック系、A.NAD、AKR.NAD、BALB.NADおよびC57BLNADマウスを樹立した。これらのコンジェニック系マウスは理研バイオリソースセンターに寄託し、国内外の研究者が自由に使用可能になるようにした。 原因遺伝子の染色体マッピングを行い、その位置情報からポジショナルクローニングに成功し、Traf3ip2(TNF receptor-associatedfactor 3 interacting protein 2)が本アトピー性皮膚炎の原因遺伝子であることを明らかにした。産業財産権としてNADマウスの特許を取得した(特許第3970727号)。
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