研究概要 |
遺伝性リソゾーム病はリソゾーム内の加水分解酵素の遺伝的欠陥によって発症する疾患である。Fabry病、Gaucher病、Pompe病については、欠損酵素を静脈内に投与し、細胞内に移行させる酵素補充療法が開発され治療に使われている。欠損酵素を補充する治療は、最も本質的な治療法であるが、残念なことに中枢神経症状にはほとんど有効ではない。 1993年鈴木義之博士らは、複合糖脂質の糖鎖加水分解酵素の遺伝的欠陥による遺伝性リソゾーム病培養細胞では、分解される基質の糖に類似体した化合物の存在下で、変異した酵素が安定化する現象を見出した。その後、1999年ファブリ病患者の変異酵素がガラクトース類似化合物存在下で安定化し、治療に応用できることを発表し分子シャペロン療法と命名した。われわれは、鈴木博士らと共同で、ゴーシェ病の欠損酵素に対する分子シャペロンをスクリーニングし、N-octyl-β-valienamineがある特定の変異(F2131)を持った酵素を安定化し、活性をあげることを発表した(Lin H, et al., 2004)。さらに、多くのゴーシェ病患者細胞をスクリーニングし、F213IだけでなくN370S、N188S、G202Rの変異を持つ患者細胞のβグルコシダーゼ活性をあげることを見出した(Lei K, et al., 2007)。この化合物は血液脳関門を通過し、中枢神経症状に対する治療法として期待ができ、今後動物個体を用いた実験を行い、臨床応用を目指す。ニーマン・ピック病C型(NPC)患者細胞と正常細胞の遺伝子発現を比較する中で、JAK/STAT系シグナルの恒常的活性化がおこり、この活性化は培養細胞だけでなく、NPC欠損マウスの脳でも見られ、この原因はコレステロールを蓄積したニーマン・ピック病C型細胞がIL-6/IL-βおよびIFN-βを産生するためにおこることを明らかにした。さらに、この背景について、細胞内にコレステロールが蓄積すると、細菌内毒素の受容体であるToll-like受容体4(TLR4)が増加し、siRNAによってTLR4を抑制するとサイトカインの産生が抑制されることを明らかにした。NPCモデルマウスにTLR4受容体ノックアウトを導入するとIL-6の産生は抑制されたが、STATのレベルおよび脳内のグリア細胞の活性化には変化がなかった。一方、IL-6ノックアウトを導入したNPCモデルマウスではSTATは抑制され、脳内のグリア細胞の活性化が抑制され、生存期間が延長することを明らかにした。NPC細胞ではTLR4の蓄積により、サイトカインの分泌によるSTATのシグナルの活性化がおこり、この結果脳内のグリアの活性化を引き起こすと考えた(Suzuki M, et al., 2007)。この経路の抑制で中枢神経症状の軽減の可能性がある。
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