造血幹細胞遺伝子治療の成績向上をめざし、遺伝子導入細胞の生着を促進し、さらに増幅するための方策を検討した。前者については、近年、間葉系幹細胞(MSC)同時移植の生着促進作用が注目されている。骨髄の造血微小環境を形成する間質細胞は、骨細胞・軟骨細胞・筋細胞・脂肪細胞・繊維芽細胞などに分化する能力をもつ間葉系幹細胞(MSC)から分化したものである。そこで、MSC分化の分子機構や造血幹細胞との相互作用の解析を行った。マウス間質細胞10T1/2親株と、造血支持能を有する10T1/2亜株が発現する分子の差異を調べた。親株に比べて亜株はSteel factor・CXCL12・Ang-1など造血に関わる液性因子を高発現しており、その発現量は、骨髄球系細胞が分泌するサイトカイン刺激によりさらに増加した。これは、造血細胞との相互作用が、骨髄間質細胞の造血促進作用にポジティブ・フィードバックをかけている可能性を示唆する。機能的にも、この間質細胞亜株をサイトカインで前刺激することにより、これと共培養したマウス造血前駆細胞のcobblestone areaおよび造血コロニーの形成が促進された。一方、造血幹細胞・前駆細胞との共培養により、この間質細胞株に生ずる遺伝子発現プロファイルを調べたところ、細胞分化に関与する幾つかの機能分子の発現が昂進していることが分かり、定量的PCRにて確認実験を行っている。以上の研究結果は、MSCまたはこれを人為的に分化させたものを遺伝子導入造血幹細胞と同時に移植して生着を促進し、さらにその効果を増強できる可能性を示している。昨年度までに開発を行ったエリスロポエチン反応型選択的増幅遺伝子の機能評価については、サルを用いた前臨床研究の準備を進めた。
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