有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis : CHAC)は常染色体劣性遺伝性神経変性疾患で、線条体の選択的変性から生じる神経精神症状と末梢血の有棘赤血球症を示す。最近、我々はCHACの病因となる新規遺伝子CHACを同定し、疾患変異を見い出した。本研究では、マウスのCHACcDNA配列を同定し、エクソン-イントロン構造を確認し、ヒトで疾患を引き起こすエクソン60-61の欠失変異を導入したモデルマウスを作成し、その表現型を解析した。CHAC変異ホモ接合体マウスは、87週齢時に野生型マウスに比し生存率と体重変化に有意差を認めず、不随意運動も示さなかった。しかし、foot print testで歩幅の減少、rotarod testで落下までの時間の短縮など運動能力障害を認め、有棘赤血球症が出現し、赤血球脆弱化試験ではホモ接合体マウスが野生型マウスより有意に浸透圧負荷に脆弱であった。行動解析ではopenfield解析で自発運動量は有意に減少し、social interaction testではホモ接合体はケージの端の方で過ごす時間が有意に長く個体同士の接触時間は有意に短かった。脳のモノアミン解析では、モノアミンおよびその代謝産物の解析では中脳視床視床下部でドパミンの代謝産物であるHVAのみCHAC変異ホモ接合体マウスで有意な低下を認め、ドパミンは低下傾向にあるものの有意差を認めなかった。組織学的には、線条体にアポトーシスとグリオーシスの所見が認められた。有棘赤血球舞踏病は、ヒトにおいてもまれな疾患であり、その病態解析は困難であった。本研究で得られたモデルマウスでは、ヒトの疾患病態と極めて類似し、老齢期に至って軽症の臨床表現型を示し、病理学的にも神経化学的にも線条体を中心とする神経変性が確認され、今回作成したマウスはヒトの疾患を研究する上でよいモデルとなると考えられた。
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