研究概要 |
老年性変化、特に神経原線維変化と老年期うつ病の関連を調べる目的で、変異(R406W)ヒト型タウを前脳神経細胞の軸索内に発現(内在性の約20%量)しているトランスジェニックマウス(TGマウス)を製作し解析した。この変異タウはヒトにおいてアルツハイマー病様の家族性前頭側頭型痴呆を生じ、加えて発症前に抑うつ症状を頻繁に出現させることが報告されている。一部のTGマウスは、19ヶ月齢以降になると海馬を中心に神経原線維様変化を示すようになる(Tatebayashi et al., 2002, PNAS, 99:13896)。3〜21ヶ月齢のTGマウスを用いて、うつ関連行動を検討したところ、強制水泳で無動時間の有意な延長を認めた(Tatebayashi et al., 2004, Neurobiol Ag,25:S249;Egashira et al., 2005, Brain Res, 1059:7)。この異常は、情動記憶異常(Fear conditioning)の出現と相関しており、出現時期に雌雄差が認められた。また異常の程度と導入遺伝子量に正相関が認められた。電気生理学的に検討するとTGマウスでLTP発生後のピークの低下が有意に早く、前シナプスにおける伝達物質の枯渇、すなわち軸索輸送の障害が生じている可能性が示唆された。われわれは以前に、タウのGSK3betaによる生理的リン酸化が軸索輸送に必要なことを見出し報告している(Tatebayashi et al., 2004, J Cell Sci, 117:1653)。そこで変異(R406W)によるタウの生理的リン酸化への影響を調べた。R406W変異はSer404のリン酸化を阻害することでGSK3betaによるPHF1サイトの生理的リン酸化を阻害することが判明した(Tatebayashi et al., 2006, FASEB J, in press)。まとめると、タウのR406W変異はタウの生理的リン酸化を阻害することで軸索輸送に障害を起こし、うつ病関連の行動異常をTGマウスに生じている可能性が示唆された。このマウスの海馬における神経新生は現在検討中である。
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