研究概要 |
マウス繊維芽肉腫細胞株QRSP11に対し0,10,20,30Gyの異なる放射線の総量を投与しコロニーアッセイを施行した。10Gyで22/10^4の比率でコロニーの発現を認めたが、20Gy以上ではコロニーは出現しなかった。つぎにこの細胞についてP53のmutationの有無を各エクソンについて検索しwild typeであることを確認した(上記コロニーアッセイとあわせ、この細胞は放射線にsensitiveであるといえる)。10Gy照射後に形成された細胞集落のうち6コロニーをクローニング(耐性候補株として)し、これら細胞株に10Gyの放射線照射を施行し(トータル20Gy)、親株と耐性候補株の間のコロニー出現率を比較した。6個の耐性株候補のうち一つが88/10^4のコロニー形成率(親株の4倍)を示し、放射線照射に耐性となっていることが示された。次に親株とこの耐性株の間でcDNAアレイを用いてmRNAの発現の差を検出した。耐性株において2倍以上の発現を示したmRNAが133個、また親株で2倍以上の発現を示したmRNAが239個検出された。このうち前者においては、interleukin6(Il6)が36倍、matrixmetalloproteinase 13(Mmp13)が26倍、matrixmetalloproteinase 3(Mmp3)が23倍、GR01 oncogene(Gro1)が13倍、後者においてはcyclin-dependent kinase inhibitor 1C(P57)(Cdkn1c)が12倍、cyclin-dependent kinase inhibitor 2A(Cdkn2a)が15倍の発現を示した。これらのことから耐性株では腫瘍増殖にかかわる因子について10倍以上のオーダーの強発現がみられ、また細胞周期を抑制する因子について10倍以上のオーダーで親株よりも発現が低下していることが分った。以上の結果より細胞株を用いた実験ではあるが、臨床の場で観察されている放射線照射後の癌細胞再増殖という現象を分子レベルである程度矛盾なく説明したといえる。また臨床例においてもDNAアレイが悪性腫瘍の予後示す有効な手段となることを悪性リンパ腫の治療成績の解析の中で示した。
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