研究概要 |
マウス肉腫細胞QRsPを用い、放射線照射により誘発されるがん細胞"再増殖(repopulation)"という現象が、放射線耐性株の出現にあることをin vitroの実験系で明らかにした。耐性株(QRsPIR)のmRNA発現を網羅的に検索したところ、親株と比較して、matrix metalloproteinase(MMP)13が26倍、MMP3が22倍、の発現上昇を認め、またCDK inhibitorであるP16およびP57がそれぞれ1/15,1/12に発現が低下をしていた。同時にクローニングした他の耐性株についても、MMP13、MMP3、P16、P57の発現はそれぞれ4.0倍、6.4倍、1/11、1/7.6とほぼ同様の結果がえられこれらの細胞株の強い増殖・浸潤能が示唆されるとともに、耐性株は元来親細胞株の中にヘテロに存在していたものがセレクションされた可能性が示唆された。さらにC57BL/6マウス(not node mouse)への移植実験によりQRsPIRが"がん幹細胞"の特徴(高い移植率と増殖能、自己再生能)を有していることが明らかになった。また、QRsPIRの腫瘍組織のarrayパターンとin vitroのデータを比較し、両者に共通する約80の遺伝子発現を認め、この中に固形癌の"がん幹細胞"のマーカー分子が潜んでいる可能性が高い。2つのヒト肺癌細胞株H1299(p53-/-)とA549(p53+/+)を用いた照射実験にても、照射に誘発された再増殖細胞は、放射線耐性となったQRsPIRに共通する遺伝子発現(MMP, integrin, rhoなど)を示し再増殖の背後に、種を越えた共通の遺伝子的背景があることが判明した。 この様に放射線照射中に出現する放射線耐性・高度増殖能をもった癌細胞に対しの戦略として癌栄養血管からの大量の抗癌剤注入と放射線治療との組み合わせが有効であることを臨床例で示した。また腫瘍の悪性度に応じた(cDNAアレイを用いた)オーダーメードの治療法の可能性を頭頚部原発悪性リンパ腫の治療の分析より示した。
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