昨年度の研究で、新しいアミノ酸輸送のトレーサー[11C]O-メチルチロシン(OMTと略)の自動合成装置が完成した。ラットを用いた実験では、高い腫瘍集積性が示され、癌診断への応用が期待できる結果であった。被曝線量についてはMIRD法により評価が行われ、全身の被曝線量は4.5μSv/MBqとFDGよりも低かった。安全性試験は、ラットにコールド体の1万倍、9万1千倍を投与する実験、標識体の100倍を投与する実験として施行され異常はなかった。また変異原性試験でも異常はなかった。 そこで、共同研究施設において、正常のサルを用いてPETによる撮像実験を行った。サルのPETにおいては、OMT投与早期から、腎が描出され、尿路排泄が高い薬剤であることが判明した。腎のほかには肝に中等度の集積があるものの、膵は描出されず、生理的なアミノ酸とは分布が異なることがわかった。脳への集積は低く、脳腫瘍の診断に有利な薬剤であると考えられた。 これまでのデータを基に、共同研究施設(東京都老人総合研究所)および、国立国際医療センターの倫理委員会に臨床研究申請書を提出し、ヒアリング・審査をへて臨床研究が承認された。 最初に健常ボランティア3名の撮影が施行された。腎および尿路以外には特別高い集積はなく、脳への集積も低かった。メチオニンとは異なり、唾液腺への集積も目立たなかった。メチオニンよりも血中プールがやや高く、ゆっくり低下するために心大血管などの縦隔影が良く見えていた。肝、脾、腸管なども見えてはいたがメチオニンよりは低く、膵臓は確認できなかった。動物実験で明らかになったのとほぼ同等の所見が人でも示され、特に種差はなく、非生理的なアミノ酸の体内分布の特徴が現れていた。 臨床研究として、初めに脳腫瘍の患者のOMT-PETを撮影し、FDG-PETと比較したところ、OMT-PETでは、腫瘍は高いコントラストで描出され、FDGよりも明瞭であった。今後、他の疾患についての研究を予定している。
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