昨年度までの研究で、新しいアミノ酸輸送のトレーサー[11C]0-メチルチロシン(OMTと略)の開発、自動合成装置の試作、ラット腫瘍モデルを用いた体内分布実験、サルを用いたPET撮像実験などが行われた。これによりPETによる腫瘍診断のトレーサーとしてOMTが有力な薬剤であることが判明した。また、被曝線量の評価、急性毒性試験、変異原性試験が行われ、臨床使用に問題がないことも判明した。これらを元に、ボランティアによるPET撮像実験を経て、倫理委員会に臨床研究申請書を提出し、臨床研究が承認された。 本年は、第2相臨床研究としてさまざまな腫瘍性疾患ないし、悪性腫瘍を疑われた患者に対し、OMT-PETを施行し、前後して行われたFDG-PETと所見の比較検討を行った、 18人の癌もしくは癌疑いの患者の26の病巣について評価した。OMT-PETは絶食後、740MBqを静脈注射し、10分後から全身を撮影した。1週間以内にFDG-PETを施行、FDGを370MBqを投与し1時間後に撮影した。画像の視覚評価とSUVの測定を行った。18人の患者の最終診断は、脳腫瘍、脳膿瘍、肺癌、肺炎、食道癌、胃癌、胆嚢癌、胆のう炎、膵癌、膵炎、大腸癌、悪性リンパ腫と多岐にわたった。視覚評価による診断結果は、感度:OMT76%(13/17)、FDG94%(16/17)、特異度:OMT78%(7/9)、FDG38%(3/8)、正診率:OMT77%(20/26)、FDG76%(19/25)と感度はFDGが高かったが、特異度はOMTが高かった。OMTは腫瘍と炎症の鑑別に優れている可能性があった。SUV値の平均ではいずれの薬剤も良性・悪性の間に有意差はなかった。食道癌の2例ではFDGは心筋や縦隔・肺門の炎症性リンパ節に集積したのに対し、OMTは癌病巣のみに集積し、高い特異性を示した。 OMTは、炎症への集積が低く、特異性に優る薬剤であることが示唆された。FDGと併用することにより、特異度の向上に貢献することが期待される。
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