腹部大動脈瘤罹患率は本邦においても増加傾向にあるが、外科手術が唯一の治療法である現状では、破裂死亡数の大幅な減少は期待できないため、病態解明と、より理想的な治療法開発が急務である。最近我々は、代表的ストレス応答分子c-Jun N-ternimal kinase(JNK)が、ヒト大動脈瘤において著明に活性化していることを見出し、その標的遺伝子を全ゲノム的に探索した。その結果、JNKは、MMP-9活性亢進と細胞外マトリクス産生低下を同時にもたらし、細胞外基質代謝を崩壊の方向に統合的に制御するキー分子であることを発見し、JNKこそが大動脈瘤治療における理想的な標的分子と考えるに至った。初年度の研究で、塩化カルシウム惹起慢性炎症による大動脈瘤モデル、次年度はApoEノックアウトマウスにアンジオテンシンIIを持続投与することにより形成される大動脈瘤を動物モデルとして用いて、JNK阻害により効果的に大動脈瘤形成を予防できるのみならず、一旦完成した大動脈瘤の退縮をも達成できることを証明した。最終年度は、JNKノックアウトマウスを用いて大動脈発症におけるJNKの役割を検討した。JNK1ノックアウトマウスおよびJNK2ノックアウトマウスの大動脈を塩化カルシウムで処置したところ、JNK2ノックアウトでのみ大動脈瘤形成が阻止されたことから、JNK2が大動脈瘤発症に重要な役割を演じていることが示された。さらにリジン酸化酵素による細胞外マトリクス安定化が炎症シグナルを抑制するとの新知見を得た。
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