研究概要 |
樹状細胞(以下DC)は強力な抗原提示能を有し,効率的にT細胞を活性化し,免疫反応を賦活する.申請者の教室ではこれまでアデノウイルスベクターを用いて腫瘍抗原遺伝子とGM-CSF遺伝子を同時にDCに導入し,これを皮下接種することで強力な特異的抗腫瘍免疫反応が誘導させることを報告してきた.近年RNAを導入したDCによるワクチン治療の有用性が報告されており,次のような利点を有する.(1)腫瘍抗原が不明な腫瘍や治療耐性の再発癌にも広く応用可能であり,多様なMHCに対応できる.(2)腫瘍の組織量が小さくても増幅して利用できる.(3)DNAと異なり同時に複数の遺伝子の導入が可能である.(4)真核生物のRNAの半減期は24時間以内であり,体内に入ったとしてもすぐに分解されDNAのようにゲノムに取り込まれる可能性は極めて低く安全性が高い.これらの理由からRNA導入DCを用いた癌免疫治療の臨床研究が進められている.本研究ではマウス大腸癌細胞株CT26より抽出したRNAとGM-CSF遺伝子を同時にDCに導入しその抗腫瘍効果を担癌マウスモデルの系を用いて検討した.またワクチン治療後の再燃腫瘍を利用したワクチン治療の可能性についても検討した.その結果, 1.CT26RNA導入DCを接種したマウスの脾細胞より誘導した細胞障害性Tリンパ球はコントロール群と比較してCT26に対する高い細胞障害活性を示した(p<0.001).またこの障害活性はGM-CSF RNAの同時導入により明らかに増強された(p<0.05). 2.再燃腫瘍モデルにおいて,CT26再燃腫瘍RNA導入DCによるCT26再燃腫瘍に対する抗腫瘍効果はCT26原発腫瘍RNA導入DC群に比べ有意に強い抗腫瘍効果を認めた(p<0.05).またこの効果はGM-CSF RNAを併用することで増強した.原発腫瘍RNA導入DCワクチン後の再燃腫瘍RNAおよびGM-CSF RNA同時導入DCを用いたワクチン療法は再燃腫瘍に対するさらなる抗腫瘍効果の誘導に有用であることが示唆された. 以上より腫瘍RNAおよびGM-CSF RNA同時導入DCを用いた癌ワクチン療法は獲得免疫を賦活し,著しい増殖抑制効果を認めた.また再発・再燃時に変異抗原に対する免疫応答を再び誘導することが可能でありGM-CSF RNA併用によりその効果の増強が得られた.本法は外科手術後または術後のアジュバント治療が必要な患者の治療に応用可能である.
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