研究概要 |
以前より我々は膵臓周囲に広く存在する神経組織と膵癌との相互作用について注目しており、神経組織から分泌される神経栄養因子が膵癌の神経浸潤に対し重要であるとの報告を行ってきた。また以前より当科では炎症性サイトカインの一つであるInterleukin-1α (IL-1α)と接着分子integrinが膵癌細胞の肝転移、神経浸潤に大きく影響を及ぼしていることを見出してきた。今回の研究の目的は、神経栄養因子や炎症性サイトカインがどのように膵癌の転移や神経浸潤に関与しているかを基礎的検討から明らかにすることである。平成16年度の研究計画としては、膵癌細胞におけるNF-kB、AP=1の活性測定とIL-1αや神経栄養因子GDNFによりそれらの転写因子の活性化がおこるかどうか、であった。Gel shift assayを用いた検討では,GDNFおよびIL-1αにより有意にNF-kBの活性が増強されていることが確認された。またIL-1α刺激によるintegrin発現増強と接着能の変化の検討ではIL-1αによりintegrinα6β1,α5β1の発現は有意に増強され,HUVECへの接着も明らかに亢進していた。つまりGDNFやIL-1αにより細胞内シグナル伝達は活性化しており、それらがひいては細胞接着や浸潤能亢進につながっており、これらの因子を制御することにより新しい膵癌治療の方向性が示せたと考える。この研究は平成17年、18年と計画されており、血管新生を含めて更なる研究を行う予定である。
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