研究概要 |
本研究は、消化管粘膜損傷に対するIntestinal Trefoil Factor(ITF)の粘膜上皮修復促進因子としての治療学的効果の検討し内視鏡的粘膜切除後の人工潰瘍に対する治療薬としての臨床応用をめざすことを研究目的としている。16年度までの研究で、ITFはラットの人工胃潰瘍に対して欠損上皮表層の細胞壊死と潰瘍周囲の炎症を抑制し、再上皮化の促進、潰瘍に治癒に伴う繊維化を抑制、すなわち自然治癒傾向を促進することを明らかにした。平成17年度は臨床応用の際に問題となりうる(1)ITFの腫瘍細胞に対する影響を検討すると同時に、(2)早期食道癌に対するEMR後の食道潰瘍に対するITFの創傷治癒促進効果、特にITFによる切除後早期の粘膜欠損部の再上皮化の促進効果を期待し、潰瘍治癒過程における瘢痕形成による食道狭窄の回避の可能性についてIn vitroの基礎的研究を行った。【結果(1)】種々の胃癌細胞株について内因性のITFの発現を確認すると同時に外因性のITFによる腫瘍増殖効果を検討した結果、ITF発現陽性胃癌細胞株(MKN-45,KATO-III)および陰性細胞株(MKN-28,MKN-74)のいずれにおいてもITFによる増殖促進効果は認められず、臨床応用に際して問題は無いと思われた。【結果(2)】DJM-1,ECGC-10の食道癌由来扁平上皮細胞株を用いたWound AssayにおいてにITFはこれらの細胞株に対して濃度依存性にmigrationを促進する傾向が認められた。この結果よりITFは人工胃潰瘍のみならず、食道潰瘍に対しても治癒促進効果が期待される可能性が示唆され、今後in vivoによる検証が必要と考えられる。なお準備研究段階であるがITFの細胞内情報伝達経路を明らかにすべく、yeast two hybrid法によりITFと細胞内で結合する分子の同定中である。
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